第1巡:討論:篠原 担当分

トップページ >> 授業概要 >> 基礎プロジェクト2 >>
発表:2003/05/01

基礎プロジェクト2
「限界を超えて」(討論)

30792 篠原大典

  「限界を超えて」によると、資源・エネルギーの消費や廃棄物の処理のペースは、こ の本が書かれた1992年の時点で「持続可能な開発(Sustainable Development)」の限 界を超えており、このまま幾何級数的に加速すれば近いうちに地球は限界を迎えてしまう という。
  「持続可能な開発」というのは、

 ・土壌、水、森林、魚など「再生可能な資瀕」の持続可能な利用速度は、再生速度を 超えるものであってはならない。(たとえば魚の場合、残りの魚が繁殖することで 補充できる程度の速度で捕獲されれば持続可能である。)

 ・化石燃料、良質鉱石、化石水など、「再生不可能な資源」の持続可能な利用速度は、 再生可能な資源を持続可能なペースで利用することで代用できる程度を越えては ならない。(石油を例にとると、埋蔵量を使い果たした後も同等量の再生可能エネ ルギーが入手できるよう、石油使用による利益の一部を自動的に太陽熱収集器や植 林に投資するのが、持続可能な利用の仕方ということになる。)

 ・「汚染物質」の持続可能な排出速度は、環境がそうした物質を循環し、吸収し、無 害化できる速度を超えるものであってはならない。(たとえば下水を川や湖に流す 場合には、水性生態系が栄養分を吸収できるペースでなければ持続可能とはいえな い。)

というものである。

  以上のような「持続可能な開発」の考え方は1987年、国連のWCED(環境と開発 に関する国際委員会)によって提唱されたものであり、この言葉は各国に広く支持される ようになった。以来この言葉は世界的に定着し、多くの国の経済政策に大きな影響を与え 続けていることは疑いない。ただし、WCEDのビジョンは「人間は持続可能な開発、すな わち未来世代がそのニーズを満たす能力を損なうことなく、現世代のニーズを確実に満た すような開発を行う能力がある」という楽観的・希望的なものである。この思想には環境 保全が可能な程度の開発・経済成長が可能という暗黙の前提があるようだが、これは自明 ではなく、願望・推論的表現であろう。それが確実に可能であれば歓迎されることである が、物質的に成長しなくても生産に対して廃棄物処理が不均衡であれば汚染が進むためそ う簡単に持続可能ということはできない。
  これに関して、「限界を超えて」の著者、メドウスらは、過去20年のデータとワール ド3を用いて様々なシミュレーションを行い、精密に安定解の有無を検討して、その結果 を「限界を超えて」として刊行した。著者はこの本の末尾で、本文の中でも引用されてい る故ウ・タント国連事務総長の「残された時間はあと十年くらいしかなく、地球規模の協 力ができなければ軍拡、環境汚染、人口増加の抑制は不可能になるだろう」というWCED のビジョンに対して悲観的な言葉が、今考え直してみると誤りではない、としている。同 時にWCEDの見解も併記し、実現可能な未来の選択の幅は広く、今後の選択が重要である、 という中間的立場をとっている。そして、この20年間に限界を超えてしまったために未 来の行路選択の幅が狭くなったと状況悪化の厳しい認識を述べ、著者らの得た安定解例で も1995年に新政策採用後安定期にはいるのに50かかるということだ。

  このような、「持続可能な開発」について、具体的な方針を立ててシミュレーションを 行って試行・計算するという方法によって、「持続可能な開発」の実現について検証したこ とは評価でき、すばらしいと思うし、説得力のあるものだと思う。しかし、ここから得ら れた安定な解は、複雑な世界モデルによる計算機シミュレーションによって導かれるもの で、これから直ちに各国政府が自国に最適な安定解を得られるものではない。さらに、す べての人々が自己の利益を犠牲にする覚悟がなければ、この安定解にたどり着くことは到 底できないであろう。つまり、「地球が持続可能な開発・成長」が本当に可能かどうかはわ からない。メドウスらによれば、「持続可能な成長」の意は、成長を抑制しつつ定常状態に 達するまでの過渡的期成長期間があるということである。しかし、世界全体として過渡的 成長期間に移行しようという合意はまだできていない。

  WCEDの提案以来、それ以前に比べて成長抑制の傾向にあることは確かであるから、 今我々は幾分かこの過渡期に入っているかもしれないが、仮に数十年としてもこれは人類 にとってきわめて重要な歴史の一コマとなろう。定常状態へ移行しつつ政策の舵取りをす ることは非常に困難を極めるだろう。しかし、今世紀は地球が環境的に持続可能になるた めに残された貴重な100年である。各国は地球が持続可能な生活実現のためのデータ交 換を通して協調し、人口、食糧、工業生産、資源、環境汚染の各因子につき安定な定常状 態へ移行するための目標と諸条件を早急に設定してお互いの整合を図り、統計データを監 視しつつ適宜必要な修正を行い、過渡的状態を乗り切る必要がある、と私は考える。
  ここまでが「限界を超えて」並びに「持続的な開発」の全体的な内容に対する私の意 見である。ここからは、もう少し具体的に、「再生不可能な資源」、特に化石燃料などのエ ネルギー資源の問題について考えたいと思う。

  石油、石炭、天然ガス等は、持続年数こそ違うものの、いずれ近いうちに枯渇してし まうだろうと言われている。「限界を超えて」の内容に従うなら、これらの資源が枯渇した 時にはこれを補えるだけの、たとえば太陽電池などの持続可能なエネルギー源が用意でき ていなければならない。「限界を超えて」が出版されてから10年、新しいエネルギー源は 発見されているのだろうか?

  現在、新たなエネルギーとして期待されているものの一つに、月面のヘリウム3があ る。これは、太陽での水素の核融合で生成したヘリウム3が太陽風で月面に運ばれ、月の 表面の砂(レゴリス)に吸着され(月には大気がないために表面まで届く)、蓄積されてい るものである。このヘリウム3の核融合が新しいエネルギーとして注目されている。この 核融合では、今までの原子力(核分裂)に比べ発生できるエネルギーが大きく、放射能が 少ないという特徴がある。月が誕生して45億年、その間に蓄積されたヘリウム3は、現 在世界で使われている電力を数千年維持できる量があると言われている。

  しかし、ヘリウム3は月の砂にごくわずかずつ均質に含まれているため、1トンのヘ リウム3を得るのに10万トンの月の砂を処理しなければならず、日本の年間消費電力を 補うためには一日3000トン近くの砂を処理しなければならない。また、ヘリウム3の 核融合にも高い技術が要求されるため、実用化はまだまだ先の話である。

  そういうわけで、いまだエネルギー問題の根本的な解決にはなっておらず、当分の間 は、ワールド3で行われたシミュレーションのように、現在の化石燃料が枯渇しないよう な対策を講じつつ、安定な定常状態を目指す必要がある。

administrated by umekkii -> admin@umekkii.jp