第1巡:紹介:樫木 担当分

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発表:2003/04/24

『限界を超えて』の内容紹介(第7章、第8章)

担当 樫木

(1)限界への対応
 資源の消費量や汚染排出量が持続可能な限界を超えて増大していることを示す兆候に対して、 人類社会がとりうる対応は三つある。
 一つはその兆候をごまかし、否定し、混乱させる方法である。これは、限界によって引き起 こされた問題を先送りするものであって、間違いなく時間とともに問題を悪化させる。
 二つめの対応は、限界からくる圧力を、根本の問題には手をつけず、技術的もしくは経済的 解決策で緩和しようとするものである。この対応は直ちに必要なものではあるが、ほとんどは 一部の圧力を一時的に軽減するだけで、その根本にある原因をどうこうするものではない。
 三つめの方法は、システムの構造そのものを変える必要があることを認めることである。こ の構造を変えるとは、システムの中の「情報」の連鎖を変えること、つまり、システムの中の 行為者たちが道具として用いるデータの内容とタイミングを、そして行動を促進ないし抑制す る目標やインセンティブ、代償、およびフイードバックループなどを変えることを意味する。
 ここでは、ワールド3を使って、世界が量的な変革を遂げた場合ではなく、この三つ日の方 法である構造的な変革を遂げた場合にどうなるかを見ていく。

(2)ワールド3を使ったシミュレーション
・シナリオ8 世界が人口を安定化させるという目標を1995年に取り入れた場合のシナリオ
1995年以降、子供の数が二人とする産児制限が100%効力を発揮するものと仮定した。このと き、工業総生産などはシナリオ2より早く、より高水準まで増加するが、シナリオ2とほぼ同 じ時期に破局に至る。

・シナリオ9 世界が人口と工業生産を安定化させるという目標を1995年に取り入れた場合 のシナリオ
シナリオ8と同様に子供の数を二人とし、また、一人当たりの平均年間工業生産の目標値を360 ドルとする。この世界は73億の人口を、2005年から2050年のほぼ50年間、望ましい水準で 維持する。しかし、その間に環境が徐々に悪化し、食糧供給も着実に減り、最終的に期待寿命 と人口は減少する。

・シナリオ10 人口と工業生産の安定化に加え、汚染排出、土地浸食、資源利用の削減に関 する技術を1995年に取り入れた場合のシナリオ
同じく子供の数を二人とし、目指す一人当たりの工業生産高を350ドルとする。さらにこのモ デルでは、上記のような様々な技術を取り入れるものとし、一人当たりの食料が望ましい水準 に達するまで土地の収穫率を向上させる。また。こうした技術は必要なときにのみ、20年の開 発の遅れをともなって実現し、資本費用を必要とすると想定されている。この場合、人口は80 億人弱で安定化し、ほぼ1世紀の間望ましい物質的な生活水準で暮らせることとなる。そして、 2040年以降環境への負荷も全体的に軽減し始める。この世界では完全とまでは行かなくとも均 衡に近い状態が維持される

・シナリオ11 人口と工業生産の安定化に加え、汚染排出、土地浸食、資源利用の削減に関 する技術を1975年に取り入れた場合のシナリオ
シナリオ10の持続可能性達成のための政策を1995年ではなく1975年に実施するものとする。 この場合。人口は57億人で安定し、シナリオ10に比べて環境はより快適で、資源もより多く、 選択の幅も広い。

・シナリオ12 人口と工業生産の安定化に加え、汚染排出、土地浸食、資源利用の削減に関 する技術を2015年に取り入れた場合のシナリオ
同じ持続可能性達成に向けた政策を1995年ではなく、2015年に実施する。このとき、人口は 87億人に達し、2055年まで衰退してしまうが、それ以降は汚染が減少し始め、食糧生産が回 復し、期待寿命も再び上昇する。しかし、持続可能な世界への移行が遅れたことにより、この モデル世界が維持しうる均衡の取れた生活水準は大幅に低下してしまう。

・シナリオ13 均衡達成のための政策を実施するものの、食料と工業生産の目標値をより高 く設定した場合
シナリオ10と比べ、モデルの一人当たり食料の達成目標値を50%増やし、一人当たりの工業 生産の目標を、350ドルではなく700ドルに設定する。このモデル世界では一人当たりの工業 生産が目標に達することはなく、一人あたり食料の方も、2065年にかろうじて目標に到達する が、その後減少し始める。結局、2100年までに、このシナリオ13の世界はシナリオ10の世 界より、様々な面で低い水準まで低下する。

 ワールド3から学べるものは質的なことであって、量的なものではない。将来の厳密な予測 をするものでも、世界が実施すべき計画を詳細に提示するものでもない。ただ、それには日常 的になされている意思決定にとってきわめて重要な、総体的結論が暗示されている。以下にそ の結論を提示してみる。
・人口や工業生産を減少させなくても、持続可能な社会に移行することは恐らく可能である。
・しかしそれには、人口および工業の更なる成長を社会が意図的に抑制することと、地球資源 の利用における技術効率を著しく改善することが必要である。
・持続可能な社会を構築する方法はたくさんあり、選択肢の幅は広い。
・地球の限界が近づくにつれ、あるいは限界を越えてしまっていればなおさら、地球の維持し うる人口と、その各人に提供される物質的水準の間には避けがたいトレードオフが生じる。
・持続可能性の追求に向かうのに時間がかかればかかるほど、最終的に持続可能な人口は少な く、物質的水準は低くなる。ある点を越えると遅れは破局を意味する。
・社会が物質的な生活水準の目標を高く設定すればするほど、限界を超え、侵蝕が始まる危険 性が高くなる。

(3)持続可能な社会とは
 持続可能性は様々に定義できるが、最も簡潔なのは次のような「持続可能な社会とは、世代 を超えて持続されうる社会であり、それを維持している物理的・社会的システムを侵害しない だけの先見の明と柔軟性、知恵を備えた社会である」という定義である。システム論的見地か らは、持続可能な社会とは、情報と社会と制度のメカニズムがしかるべきところに備わってお り、人口と資本の幾何級数的成長を生む負のフイードバックループが抑制されている社会のこ とを言う。
 そこで、世界システムを持続可能性に向けて再構築するための、一組のシンプルな、一般的 ガイドラインを以下に列挙する。
・シグナルの改善。
・対応に要する時間を短縮する。
・再生不能資源の消費を最低限に抑える。
・あらゆる資源を最大限効率的に利用する。
・人口と物的資本の幾何級数的成長を減速させ、最終的には停止させる。

(4)行き過ぎからの引き返し
 農業革命は大きな前進であったと、その継承人であるわれわれは思う。しかし、その当時の 人々には、利益と同時に不利益を与えた革命でもあった。農耕生活者は、機構や疾病、伝染病、 外部からの侵略、内部に誕生した支配層による抑圧など、狩猟採集生活者にはなかった問題を 抱えるようになった。また、定住した人々は自らの廃棄物からも離れることがなくなり、人類 としては初めて慢性的な汚染を経験することになる。そして、やがて人口の増加によって、土 地とエネルギーの欠乏が生じ、新たな革命が必要となった。
 産業革命はまずイギリスで起こり、そして世界に広がっていった。この革命も農業革命と同 様すべてのものが予想もつかない変化を遂げた。そして、物質的生産が大いに高まり、とにも かくにも50億人以上の人びとを支える世界が生まれた。しかし、産業革命は限界のあった農業 革命の成功と同様、結局は新たな欠乏をもたらすものであった。しかもそれは、単に土地や燃 料、金属にとどまらず、環境の吸収能力の欠乏にまでおよんでいる。そこで、今また新たな革 命が必要とされているのである。
 もちろん、どうすれば持続可能性革命が起こせるのか知るものはいない。ただ、持続可能性 革命が起きるとすれば、それは有機的で進化的な過程を経ることになるだろう。
 ここで、複雑なシステムには徹底的な革命にとって重要な意味を持つ特質が二点あげてみる。 第一に、情報が改革の鍵を握るということ。第二に、システムは情報の流れの変化、特にルー ルやゴールの変化に抵抗する点である。
 そして、いかなる手段をとるべきかという問いに対し、有益と感じた五つのものを言及して 締めくくりとしたい。
(a)ビジョンを描くこと
 ビジョンを思い描くとは、自分が望んでいることを、最初は全般的に、それから徐々に想 像することである。ただの夢想に過ぎないと懐疑的に捕らえる人も多いだろう。もちろん、 行動をともなわないビジョンは無意味である。しかし、ビジョンを欠いた行動では、行き先 も分からなければ、そこに向かう理由も分からない。そして、もっと大切な点は、多くの人 に共有されしっかりと見据えられたビジョンからは新たなシステムが生まれるのことだ。
(b)ネットワークづくり
 非公式のネットワークは、公の組織と同じ方法で情報を伝えるが、より効果的な場合が多 い。この非公式ネットワークこそが、新たな情報の本来の発信源であり、新たなシステムを 発展させる可能性を持っている。
(c)真実を語ること
 嘘は情報の流れを歪める。情報の流れが混乱したり歪んだりすると、特に危機に直面した 際にシステムが機能しなくなる。最も重要なシステム理論の一つは、故意による情報の歪曲、 遅れ、隔離があってはならないという、ことである。
(d)学ぶこと
 人間の無知は、ほとんどの人が認めている以上に重症である。とくに、地球社会がこれま でになく包括的な一つの統一体に向けて歩みよりつつあり、また、驚くほど複雑な地球のダ イナミックな限界に向けて突進しつつあり、そしてまったく新しい考え方を求められている というのに、誰も十分な知識を持っていない。
 学ぶということは、物事を試しながらゆっくりと進み、その行動がもたらした影響に関す る情報を自ら収集することである。行動や政策が効果を上げていないという、歓迎できない が重要な情報も含まれている。間違いを犯さずに何かを習得できる人間はいない。その間違 いについて真実を語り、そこから先に進むことによって学ぶのである。また、学ぶというこ とは、常に新しい道を模索し、他者の行っている異なる道の研究をも快く受け止め、その道 のほうが優れている場合は、自ら道を切り替えることも意味する。
(e)愛すること
変わり行く世界と対峙するときは自分自身に対しても他人に対しても、忍耐強くありたい。 避けがたい抵抗を理解してそれを思いやる心を持ちたい。新たな世界から、いかなる人間を も締め出してはいけない。新たな世界はあらゆる人間を必要とする。自分自身や他者の中に ある人間としての最高の天性を見出し、それを信じることである。地球的なパートナーシッ プ精神なしに、世界を限界以下に引き戻すという冒険を無事切り抜けることはできないだろ う。人々が自分自身や他者を愛情をもって見ることができなければ、破局は避けられない。

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