第2巡:総括:樫木 担当分

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発表:2003/06/05

基礎プロジェクト2

『知識創造企業』 総括

30783 樫木 俊史

(1)内容の概要

 この本で、著者は日本企業の成功の最大の要因は、組織的知識創造の技能・技術である と述べている。その日本的知識創造は、知識は目に見えにくく暗黙的であるという暗黙知 の考えに基づいていて、その日本企業の知識創造の特徴は、暗黙知から形式知への変換に ある。ここでその例として、ホンダ・シティの例が挙げられている。
 そして著者は、知識創造の核となるコンセプトとして、知識変換の四つのモード、暗黙 知から暗黙知へ、暗黙知から形式知へ、形式知から形式知へ、形式知から暗黙知への変換 を、NEC、キャノン、アサヒビール、富士ゼロックスの例を交えながら論じている。加 えて、松下電器の自動パン焼き器ホーム・ベーカリーのケースを使い、知識創造があらゆ るレベルで連続的に起こることを示している。
 また、組織的知識創造を最大限促進する経営プロセスとしてミドル・アップダウン・マ ネジメントという新しいモデルを提案している。このモデルは、二つの伝統的な経営スタ イル、トップ・マネージャーだけが有能で知識を創造するトップダウン・モデルや第一線 社員が自立的に知識を創造するボトムアップ・モデルとは違い、ミドルマネージャーが中 心に位置し、組織の上のほうにいるマネージャーと下のほうにいる第一線社員を巻き込み ながら、組織的に知識を創造していくのである。
 続けて、ミドル・アップダウン・マネジメントが有効に機能するための支えとなる組織 構造を論じている。帝国日本軍とアメリカ海兵隊の例を使いながら、形式的なヒエラルキ ーも柔軟なタスクフォースも、どちらか一方だけでは活発な知識創造に適合した組織構造 になりえないことを論証し、双方が持つそれぞれの利点を併せ持つ新しい組織構造として、 「ハイパーテキスト型組織」を提案している。そして、それを採用している例としてシャ ープと花王のケースを使っている。
 最後に、知識創造が地球規模にまで拡大できることを示している。例として、日産や新 キャタピラー三菱などがあげられていて、これは、知識創造が国境だけでなく、企業の壁 をも越えて起こりうることを示す。

(2)議論の概要

 【1】日本企業の知識創造は不確実性の結果か?
 日本企業が、他の先進国に比べ特別に不確実な状況にあったという事実は見受けられな い。むしろ、日本における知識創造の強さは、比較的安定な状態にあったことに起因する のではないか?

 【2】日本型経営では最適でない製品が開発されるのではないか?
 日本型経営では、メンバー同士が互いに甘え、妥協してしまい、詰めの甘い製品が開発 される恐れがある。そして、タスクフォース型の組織構造の場合は、責任の所在があいま いになってしまう。このため、知識創造企業の実現のためには、適切な人事評価体系を構 築する必要がある。

 【3】 本書の指摘する知的創造スパイラルは、時に非効率的ではないか?
 知的創造スパイラルが日本企業の知識創造において重要であることは認めるが、すぐに 一人で考え付くような事について、わざわざグループ討論したり、メタファーやアナソロ ジーといったあいまいな言葉を羅列したりして、結果として曖昧なコンセプトの形で出て くるのは非効率的である。
 本書で上げられているものとして例えば、ホンダの小型車シティを開発する際にトップ が「冒険しよう」というスローガンを発し、チームリーダーが「クルマ進化論」というス ローガンを考え出し、様々な議論の末に、最終的に「マン・マキシマム、マシン・ミニマ ム」というコンセプトがようやく出てきた。しかし、これらのスローガンやコンセプトは 当たり前であり、非効率的ではないのか?
 これに対する意見としては、まず、この当時としてはこの「内部空間はなるべく広く、 車体はなるべく小さく」というコンセプトは新しいもので、画期的なことではないか、と いうものが挙がった。また、最初にトップの人間が明確なスローガンを掲げれば、自由な 発想が阻害されるのではないか、という意見も述べられた。

 【4】 ミドル・アップダウン・マネジメントは最良の企業モデルなのか?
 それぞれの企業の形態にあったモデルを選ぶべきではないのか?例えば、経営者が優秀 ならばトップダウンによる知識創造が行われ、第一線社員の層が厚いならば、トップは表 出化の役割に徹し、知識創造の補助をする、というのでもよいと思われる。要するに大切 なことは、適材適所こそが最も大事なことである。

 【5】 組織的創造は最大の原因といえるか?
成功の重要な要因といえるが、最大の原因というには疑問が残る。

 【6】形式知は伝達・共有は容易で、暗黙知は伝達・共有は困難であるというのは本当か?
 例えば、「富士山はきれい」という暗黙知は、実際に富士山の風景を見せれば容易に伝達・ 共有できるのではないか、という意見である。これに対して、きれいと思わない人には伝 えるのは困難ではないか、という意見などが出された。

 【7】新たな知識創造には、組織メンバー間の濃密な交流を必要とするか?
 新たな知識を創造するのに、メンバー間の濃密な交流は必ずしも必要とせず、自分ひと りでも可能である。この意見に対しては、一人だけで新たな知識創造ができるというのは 言い過ぎではないか、という意見が出された。

 【8】本書で例として上げられている企業は現在どうなっているのか?
 ホンダやキャノンと異なり、松下の株価は下がっている。2001年度に売上は落ちたが、 2002年には持ち直している。にもかかわらず株価は伸びていない。結論としては、今の松 下はあまり芳しい状態ではなさそうである。

(3)見解
 日本企業の成功は、暗黙知から形式知への変換にある、と筆者は述べている。そして、 現在、日本企業は潜在的知識を有しており、個人の知識創造能力を意識的に大切にし、日 本的経営を知識創造能力の養成と発揮という観点から再構築すれば、復活すると述べてい る。これに対し、暗黙知というものがありさえすればよく、形式知的な経営はいらないと いうことになりはしないかと、私は危惧する。無論、筆者は形式知と暗黙知の相互作用に よって知識創造がなされるべきであると述べている。しかし、暗黙知的な無形の資産を大 事にするあまり、その向上ばかりに力が注がれ、本来の企業目的からはかけはなれてしま うこともありうるのではないか。もちろん、暗黙知的な無形の資産は重要であるが、それ を直接向上する魔法のような手段はないので、まず順番として、形式知として明示的な部 分に着手すべきで、暗黙知から形式知への変換をどうするかはそれから決めるべきではな いだろうか。
 最後に、こうすれば企業は必ず成功する、という方法を明示的に示すのは不可能であろ う、と私は思う。なぜなら、企業の形態や業種によって様々なケースが考えられるし、そ もそもそんな方法があればどんな企業も成功できるだろう。本書の場合も、具体例として 挙げられているのは、製造業で大企業の新製品開発の成功に関することがほとんどで、サ ービス業や中小企業に関する例はほぼ無いといってよく、失敗したケースも当然考えられ るが、それには触れられていない。大切なのは、ただ、本書を含めて様々な経営の考えに 触れることで、自分たちの企業に最良である方法を自らの手で見つけ出していくことであ ろう。

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