第3巡:討論:梅城 担当分

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発表:2003/06/26

基礎プロジェクト3 『イノベーションのジレンマ』 討論

30777 梅城 崇師

●破壊的技術かどうかを見極めるにはどうすればよいか
 とりあえず、「破壊的技術」が存在するとしよう。
 148ページに、「顧客が明らかに求めていない破壊的技術が出現したとき、経営者はどうするべきだろうか」とあるが、それが破壊的技術か、または泡のように消えてなくなる技術なのかはどうやって見分ければよいのか。
 もし、完全に見分けられなければ、その技術に対して投資できないだろう。破壊的技術「かも」しれないという理由だけで投資していたのでは、いくら体力のある企業でも体力不足になってしまうし、なにより、小さな企業にとっては、無駄な投資は命取りになりかねない。持続的な発展ではない、なんらかの破壊的技術に投資するからには、それが破壊的技術であり、投資する意味が十分にあるという何らかの確証がなければならないのである。
 第10章に、電気自動車が例として挙げられているが、破壊的技術かどうかを確かめるには性能の軌跡と、需要の軌跡を描いただけである。確かに、本書では、破壊的技術を持った事例は全て、性能の軌跡が需要の軌跡を上回る現象が起きていた。だからといって、性能の軌跡が需要の軌跡を上回れば破壊的技術であるとは言えない。実際に、2.5インチディスクが破壊的技術でないと言っている例からもこれはわかる。
 だったら、なぜ、電気自動車は破壊的技術と言えるのだろうか。破壊的技術でなければ、新規参入しても勝てる見込みは薄いし、投資も無駄になる可能性がある。第10章では、電気自動車に破壊的技術としての性格を与えようとしているだけで、実際に破壊的技術とは言えないのではないか。そうすると、電気自動車へ投資することへの正当性がなくなる。
 破壊的技術は、従来とは違う新たな価値基準を見出さなければならないが、その価値基準を見出して有効活用できたからこそ破壊的技術になるのではないか。つまり、後から振り返れば破壊的だとわかるが、当時は破壊的かどうかの区別がつかなく、企業が積極的に破壊的イノベーションに挑戦することはできないのではないだろうか。

●独立組織は破壊的技術に対して本当に成功しやすいのか?(第5章・第6章)
 顧客の力は強く、顧客が望むような資源配分プロセスとなる。よって、顧客を無視して全社員に号令をかけて破壊的技術を追求するよりも、独立した組織をつくってその破壊的技術を必要とする新しい顧客の中で活動させる方がよいとある。ここでいう独立組織とは、主流組織の中にある独立部門ではなく、更に主流組織から独立した、「独立組織」である。
 しかし、独立組織を作るにも、株式取得や、部門設立などで経費がかかることは明白で、この経費の使われ方というのも、顧客が望むような資源配分プロセスに組み込まれているのではないか?そうであれば、破壊的技術がそこにあるからという理由で独立組織を作ろうという流れは生じないのではないだろうか。また、独立組織になったからと言って、価値観そのものはそんなに急に変わるわけではない。このように、経営トップが破壊的技術を推進したいのであれば、どちらにせよ顧客・社員を説得・教育しなければならなく、独立組織の方がはるかに成功する確率が高いというのはいえないのではないか。

 独立組織をとることで、成功しやすい理由は第6章にもあるとおり、比較的小さな規模であるため、小さな市場で満足でき、技術の初期導入に向いているからである。また、組織が小さく、主流組織から独立していれば、小回りも利きやすく、様々な活路を見出しやすいだろう。しかし、独立組織にすることで、「規模の効果」がなくなり、経営効率は悪くなるのではないか。日本の市町村も、現在の3000から、合併が行われどんどん少なくなろうとしている。
 これが行われるのと同じ理由で、企業も独立組織にするよりも、統合したほうが、事務作業の共通化や、重複プロジェクトの一本化などで、「規模の原理」が得られるのではないだろうか。そうであれば、一概に、(ジョンソン&ジョンソンのように)独立組織をたくさん作る方が優れているということは言えないのではないだろうか。
 225ページにも統合についての記載はある。1999年3月2日にhpが分割を発表したのは、1桁成長への落ち込みを危惧したためと言われているが、470億ドルの売り上げのうちの76億ドルを占める(停滞気味だった)計測部門を分離したに過ぎず、取り立てて騒ぐほどのことでもないと思われる。
 この分割に関して、米hp社の株価推移(米Yahooより検索)と、四半期決算(ZDNETニュース履歴を収集)を掲載する。これらを総合して勘案すると、分割発表直後には株価が8%上昇したものの、分割会社であるAgilentの株式が公開された同年11月18日や、分離が完了しだした2000年中ごろには株価は下落傾向にある。更に分割費用として、2億ドル以上が使われた模様であり、財務的負担も小さくない。しかも目標とした2桁成長は、分離直後は達成されていたものの、PDAやパソコンの不況に悩まされたこともあり、徐々に下落傾向を見せており、分割2年後にはマイナス成長に達している。
以上のことから、この分離はそれほど成功しているとは到底思えない。
 この後hpは、2001年9月3日にCompaqとの250億ドルの株式交換による合併を発表し、周知のとおり、創立者一族や機関投資家を巻き込んだ争いが起きる。
 このようにhpは、一部を分離した後に、それ以上に肥大化している。最新の四半期決算では合併によって、売上高180億ドルに達し、パーソナルコンピュータ売上げでは世界トップとなっているが、前年同期比では1%減のマイナス成長となっている。しかも、業績に貢献しているのは、合併の影響の少なかったプリンタ部門である。
 これ以上、突っ込むことはしないが、以上のように、独立組織にすることも、類似部門を合併することも、どちらも必ず良い方向に転ぶわけではない。

四半期売上前年同期配当
1997-4118億$+16%75c
1998-1118億$+15%86c
1998-2120億$+16%65c
1998-3110億$+6%58c
1998-4122億$+4%68c
1999-1119億$+1%92c
1999-2124億$+3%88c
1999-3122億$+11%85c
1999-4114億$+10%73c
2000-1116億$+14%80c
2000-2120億$+15%87c
2000-3118億$+15%97c
2000-4133億$+17%41c
2001-1119億$+1%37c
2001-2116億$−4%18c
2001-3???
2001-4109億$−18%5c

株価チャート

●マイクロソフトはなぜ成功しているか
 これこそが規模の効果の現れである。規模の効果の最たるものは、ディファクトスタンダード、訳すと「事実上の標準」である。極端に言えば独占寡占状態である。
 マイクロソフトは規模の効果の上に成り立っている。その規模は、GE等に並び世界最大級であり、資産で言えば韓国の予算に匹敵する。その規模の効果を十分に活かした経営を行っているのがマイクロソフトなのである。マイクロソフトは一社であるが、OSや、オフィス、サーバソフト、プログラミング言語、エンタープライズ製品等さまざまな製品が、互いに連携し、資源を奪い合いながら相乗効果により成功を収めている。また、それを各国語に作り直すことで、世界規模に渡る活動を行っている。
 規模の効果をうまく活かした例として、ブラウザの例がある。
 あるとき、ソフトウェアの分野で破壊的技術が広まり始めた。それまで、一太郎やワードなどで互換性のなかった整形文書にHTMLという統一基準を持ち込み、さらに今まで一台一台のパソコン単独で作業していたのに対し、インターネットという世界中のネットワークが繋がったものでそのHTMLが閲覧できるというのである。更に、HTML同士は互いに関連付けられて構成されている。HTMLは、表現量がワードなどの文書作成ソフトに比べ貧弱であり、インターネットも当時は複雑な設定や契約をしないと使えない難しいものであった。しかし、マイクロソフトはこの技術の利点を鋭く見抜き(成功しつつある新規企業がいるのを知り)、インターネットブラウザの開発に素早く乗り出した。
 これはディファクトスタンダードを守るためであった。インターネットブラウザ上では、HTMLを作成したソフトウェアの違いを気にすることはないし、場合によってはブラウザを動かしているOSの違いを気にすることもない。Windowsの上を行く互換性を持つことが可能なのである。つまり、ブラウザを使えば別にWindowsでなくても作業ができるのである。当時、ブラウザは貧弱なHTMLの閲覧程度しかできなかったが、HTMLの持つ機能は魅力的であったため、急速に広まる兆候を見せていた。
 このようなことに脅威を感じ、脅威を排除するために、つまりWindowsを守るために、マイクロソフトはWindowsにブラウザを組み込むという手法を思いついた。そうすれば、何も恐れることはない。これを達成するため、マイクロソフトは、ブラウザの開発企業を買収した。規模の効果により、巨大な財務基盤を持つマイクロソフトだからできることである。これにより、ブラウザの基礎を手に入れたマイクロソフトは、ブラウザに他社よりも早いペースで改良を加えていった。これもOSとブラウザを互いに独立組織とせずに、同一組織で作成したために、互いに情報を共有しあうことができたためである。
 結局、マイクロソフトの思惑通り、ブラウザとOSのダブルディファクトスタンダードを形成し、独占禁止法裁判まで起こされると言ううれしくないおまけはついたものの、ブラウザのOSへの組み込みは、企業経営としては大いなる成功を収めたのである。
 同じような道が、Javaなどに対しても行われている。
 つまり、ディファクトスタンダード、規模の効果こそが企業間競争に勝つための最大の目標なのである。

 そして、各分野のディファクトスタンダードが協力し合うことでより強大な力を得ることができる。これは、ウィンドウズ+インテルからなるウィンテルという言葉に象徴される。
 つまり、マイクロソフトの製品は、年々肥大化しており、機能も豊富になり、より多くのディスク容量、マシンパワーを求められる。これは、ユーザにより魅力的な製品を提供して、買ってもらおうとするだけではなく、より多くのマシンパワーを求める製品にすることで、インテルなどの企業に対する需要を喚起することになる。これにより、インテルなどは高機能の製品を市場に投入する動機を得、より快適な操作を実現するため、更に高機能な製品を投入し、マシンパワーは増加する。これにより、マイクロソフトは更なる機能を詰め込む余地が与えられるという、正のフィードバックループをもたらし、両者がより緊密に連携することで、両者のより一層のディファクトスタンダード化に貢献している。

 ところで、ソフトウェアの世界では、ディファクトスタンダードを得る最大の手段は互換性である。
 この例としてPC98シリーズがある。マイクロソフトのWindowsのディファクトスタンダード化により、日本ではNECのPC98シリーズが姿を消したのである。
 Windowsでは、ハードウェアが違ってもWindows上での互換性を保障している。これは、それまでPC98シリーズ同士では互換性があるという、PC98の最大の特徴をであった互換性を、Windowsが乗っ取った形になる。これにより、ユーザはPC98ではなく、DOS/Vを使用しても互換性が保てるようになり、PC98のシェアは急減し、NECはPC98仕様から撤退した。

●先進国に対して、後発国は破壊的イノベーションであるか
 最近の後発国の台頭を破壊的イノベーションと捉えることもできるのではないか。
 日本などの先進国同士が、技術を磨き、活発な企業活動を行い、国富を増やしてきた今までを持続的イノベーション。それに対し、中国などの後発国を破壊的イノベーションとできるのではないか。
 ある商品や事業を発注することを考える。先進国の企業に発注するか、後発国の企業に発注するかという選択肢が生じる。
 日本などの先進国は、高い技術を持っていて、更にその技術を発展させながら、様々な経済活動を行っている。先進国は、その技術を買われ、例えば貨物船の補修、部品の作成、プログラミング等のさまざまな受注を受け、こなしていた。しかし、先進国の持つ技術は、一部のごく高度な技術を要する顧客を除き、大抵の顧客にとっては供給過剰と言えるほどの水準に達していた。
 ここに、中国などの後発国が、安い人件費という破壊的イノベーションを持って現れた。当初は、後発国は低い技術しか持たなかった。そこで後発国は、低い人件費を活かし、先進国企業の下請けや、海外工場としての役割を買って出た。それは先進国でも利益率の低い部分であったため、先進国はその動きに同調し、利益率の高いマネジメント部分は先進国に残しつつ、利益率の低い単純実作業部分は後発国で行えるようにしていった。
 その後、後発国は高いペースで経済発展・技術革新を行い、先進国の支援がなくても自分たちでも技術やマネジメント方法を産み出せるほどになり、先進国の下位部分を侵食しはじめるまでになった。先進国と後発国のどちらでも同じ技術・方法が使用できるとすれば、顧客はもちろん人件費の安い後発国に発注する。
 これらの動きに対し、先進国はより高度な技術分野へと移動していくことになる。例えば貨物船の補修から特殊船(戦艦・LNG船)の補修へ、部品の作成から部品の設計へ、プログラミングからシステムエンジニアリングへというようにである。しかも、先進国のうち特に日本などは産業空洞化などに苦しみだし、万年的な不況へと突入している。「倒産」の日も近いのではないだろうか。
 このように考えることで、後発国を破壊的イノベーションと取ることはできるのではないか。

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