第3巡:紹介:藤田 担当分

トップページ >> 授業概要 >> 基礎プロジェクト2 >>
発表:2003/06/19

シミュレーション基礎プロジェクト2第2グループ第3ラウンド
Clayton M.Christensen「イノベーションのジレンマ」内容紹介資料

(序章〜第2章)
平成15年6月19日木曜日第3・4限
工学部システム創成学科シミュレーションコース 3年 03-30798 藤田 智

資料の構成

 Clayton M.Christensen「イノベーションのジレンマ」(翔泳社)の内、主として序章〜 第2章で述べられた著者の主張の枠組みを述べる。ここでは、私の解釈をもとに私の言 葉で著者の代弁を行うという形式を、敢えて採用した。解釈や表現が不適当と思われる 点はご指摘いただきたい。

著者の主張の枠組み

 本書の主張の根本は、市場は一種類ではないという事に尽きる。世の中には規模、効 用関数(商品の評価基準)、コスト構造の異なる多くの市場が存在し、または誕生を待っ ている。効用関数やコスト構造が比較的似通っている市場が階層的に重なっているもの を、バリューネットワークと呼ぶ。異なるバリューネットワークではコスト構造や効用 関数も異なるわけであるが、この相違がある種の技術を企業にとって「破壊的」たらし めるのである。
 商品の特性には様々な変数が存在する。どの変数をどの程度高く評価するかは、市場 によって異なる。簡単のため、商品の特性が2変数(x,y)で表されるとしよう。そして、 2種類の市場M-old及びM-newを考える。M-oldは成熟した大規模な市場で、商品の効用を主と してxで評価する傾向があるとする。一方、M-newは新たに生じつつある小規模な―しか し将来大規模になるかもしれない―市場で、商品の効用を主としてyで評価する傾向が あるとする。また、主としてM-oldの固定的顧客を扱う従来の企業をC-old、M-newを開拓する 新規参入企業をC-newとする。C-oldは顧客の要求により、xの値が大きい商品を販売しよう とし、そのためには高度且つ抜本的な技術革新をも惜しまない。その様な、従来の主流 市場で高く評価されていた特性xの値を更に増加させるような技術を、持続的技術と呼 ぶ事にする。C-oldは一方で、yの値が大きくてもxの値が小さい商品については、従来の 固定的な顧客の需要を満たせず、投機的であるため、資源を持続的技術の方へまわして しまい、販売しようとしない。たとえそれが技術的に容易であっても、である。その様 な、従来の主流市場M-oldで高く評価されていた特性xの値を減少させ、従来の主流市場 M-oldで高く評価されていない特性yの値を増加させるような技術を、破壊的技術と呼ぶ ―なぜ破壊的であるかは、これ以降わかっていくことである―。C-newの方は、既存の顧 客を持たないため、試行錯誤で商品を販売する事になる。その商品の中には、C-oldが見 捨てた様な、xの値は低いがyの値が高い物が含まれる。破壊的技術により生じたその 様な商品は、既存の主流市場M-oldでは売れないが、新たな市場M-newを生み出し、成長さ せる。こうして、破壊的技術を用いた新規参入企業C-newは、従来の企業C-oldが相手にし なかった新たな市場M-newの開拓に成功しうる。

図1:破壊的技術の出現
図1:破壊的技術の出現

 コスト構造とは、ここでは開発費・営業費等の間接費の直接原価に対する割合を特徴付 ける要因である。コスト構造はバリューネットワークによって異なり、成熟した主流市 場M-oldを擁すバリューネットワークのコスト構造では、間接費が高くなる。従ってM-old を相手にする企業C-oldは、高い粗利益率を得る必要がある。一方で、新たに誕生し成長 しつつある市場M-newを擁するバリューネットワークのコスト構造では、直接原価に対す る間接費の割合が比較的低い。したがってM-newを開拓するC-newは、より低い粗利益率で も事業を成立させる事ができる。C-oldは高い粗利益率で経営してきているため、低い粗 利益率のコスト構造を持つC-newと、同じ市場M-newで対等に競争する事は難しい。そのた め、M-newは成長後もC-oldが参入し持続する余地が殆ど無い。
 C-oldがM-newに満足に参入できないでいるうちに、異変が起きる。C-oldはM-oldの顧客の要 望に沿って、xの値が大きくなる様に商品を改良する。しかしその改良がM-oldでの要求 の向上を追い抜き、M-oldの顧客にとってもxの値が過剰になる事がある。この場合、M-old の顧客にとってももはやxの値は重要でなく、関心が徐々にyの値に向くようになる。 一方、C-newの商品も少しずつxの値を増してくる。この値がM-oldの顧客の要求水準を十分 満たす様になると、C-newの商品はM-oldでも、C-oldの商品以上に売れるようになる。この様 にして、C-newはM-newの開拓から始まり、M-oldをも制覇するのである。C-oldはM-oldの顧客をも C-newに奪われ、経営に行き詰る。これが、xの値を上げずにyの値を上げる技術がC-oldに とって破壊的である所以である。

図2:破壊的技術の侵略
図2:破壊的技術の侵略

 以上で述べた様な過程の具体例としては、補助記憶装置(ハードディスク・フラッシュメ モリ)の業界だけでも以下の表1〜5の様に多くのものがある。(藤田註:ところで、上 下に並ぶ2つの表を比較すると、同じ技術の評価基準がコンパクト性であったり単位価 格あたりの容量であったりするが、これは矛盾ではない。ここに記した評価基準は、あ くまでも1つの表の中での持続的技術と破壊的技術を比較した場合、どちらがどの特性 でより評価されるか、という事を相対的に述べたものである。補助記憶装置業界では、 図1,2に描かれた様な変化が、1段階ではなく多段階で起きている、と考えれば納得し ていただける事と思う。)

表1:14inchディスクから8inchディスクヘ

持続的技術 14inchハードディスク 8inchハードディスク 破壊的技術
M-old メインフレーム市場 ミニコン市場 M-new
x 単位容量あたりの価格 コンパクト性 y
C-old コントロール・データ シュガート・アソシエーツ
マイクロポリス
ブライアム
C-new

表2:8inchディスクから5.25inchディスクヘ

持続的技術 8inchハードディスク 5.25inchハードディスク 破壊的技術
M-old ミニコン以上の市場 デスクトップPC市場 M-new
x 単位価格あたりの容量 コンパクト性 y
C-old シュガート・アソシエーツ
マイクロポリス
ブライアム
カンタム
シーゲート・テクノロジー
ミニスクライブ
コンピュータ・メモリーズ
インターナショナル・メモリーズ
C-new

表3:5.25inchディスクから3.5inchディスクへ

持続的技術 5.25inchハードディスク 3.5inchハードディスク 破壊的技術
M-old デスクトップPC以上の市場 ポータブルPC市場 M-new
x 単位価格あたりの容量 コンパクト性 y
C-old シーゲート・テクノロジー
ミニスクライブ
コンピュータ・メモリーズ
インターナショナル・メモリーズ
コナー・ペリフェラルズ C-new

表4:3.5〜2.5inchディスクから1.8inchディスクヘ

持続的技術 3.5〜2.5inchハードディスク 1.8inchハードディスク 破壊的技術
M-old ポータブルPC以上の市場 心臓モニタ等の市場 M-new
x 単位価格あたりの容量 コンパクト性 y
C-old コナー・ペリフェラルズ
(新生)カンタム
ウェスタン・デジタル
マクスター
  C-new

表5:1.8inchディスクからフラッシュメモリへ(予測)

持続的技術 1.8inchハードディスク フラッシュメモリ 破壊的技術
M-old コンピュータ市場 携帯電話等の市場 M-new
x 単位価格あたりの容量 コンパクト性 y
C-old     C-new

他の業界の例も、第三章以降で多数紹介する。

 尚、ある種の技術革新によって実績ある企業が失敗する事に対しては、以前は上記の 様な説明ではなく、純粋に技術的な問題、あるいは組織構造の問題が原因であるとする 説明があった。
 まず、実績ある企業が技術革新で失敗するのは、純粋な技術的問題とはいえない。実 績ある企業の多くは、非常に抜本的な技術革新であっても、それが持続的技術であれば、 将来を予測して技術革新を行い、積極的に商品化し、成功してきた。一方、破壊的技術 は既存の技術の簡単な応用である場合が多いにもかかわらず、実績ある企業はその簡単 なはずの破壊的技術に乗り遅れ、失敗しやすいのである。実際、破壊的技術に関しては、 技術開発までは実績ある企業でも行われた例が多い(つまり、失敗はその後の商品化や販 売に消極的であった事による)。以上からわかる通り、技術革新の際の企業の失敗は、純 粋な技術上の問題ではない。
 実績ある企業の技術革新での失敗は、組織構造に原因がある、とする考え方は、かな り正しいようでもある。商品の構造にあわせて組織構造を固定していれば、商品の構造 を根本的に変更しなければならない様な大規模な技術革新には、組織の連携の面で困難 が伴うであろう。(藤田註:第2章で著者は、この段落の説よりもこの資料の前半で紹 介した説の方が優れているとする。しかしその理由は判然とせず、また後から加えられ た第8章では技術革新における組織構造の問題が大きく指摘されている。この段落で述 べた説は、資料前半の説に対する補足であって、別の理論として優劣を付けられる性質 のものではないと考えられる。従って第2章で著者が2つの説―この段落の説と資料前 半の説―に対して行った優劣判定は、本書の主張を全体的に見るとやや浮いている様に 感じられる。)

administrated by umekkii -> admin@umekkii.jp